ラストデイズ #2

マイケル・ピットのしぐさは、カート・コバーンそっくり。

監督の インタビューの記事はここで読めます。

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春休みなのか、シネマライズ渋谷は満員。全席指定なので危うく次の回に回されそうになりました。
前作『エレファント』よりは、印象は薄めです。
ファーストシーンは木立越しのロングショットから始まります。ドラッグの回復施設から逃げ出してきた主人公が、画面の左上から右下へふらふらと歩いていきます。

次のワンシーン、ワンショットは急斜面の向こう岸を降りる主人公ブレイク。そのまま服を脱ぎ、パンツ一枚で、川を渡りこちらの岸の岩の上に後ろ向きに立ち、立ちションをします。

裸になって、川に入る。このシーンでこの映画のテーマはすでに暗示されています。

そして、やっともどった家には、居そうろうの男女が住んでいて……

家の中を銃を片手にさまよう、ブレイク。ベッドで寝ているゲイのカップルに、銃口をそれとなく向けたり。

極端に少ない会話 、途切れたコミュニケーション……

自殺するまでの2日間の様子がなめるようなカメラワークで、淡々と描かれていきます。
主人公が、スタジオでギターを弾きながら歌うシーンにぐっときます。

これは、映画そのものではないですか。ベタな歌。
ここの場面に、この人の純粋さが結晶化されていますね。

「死から誕生まで」というのも何か、意味深いですね。

Death to Birth

実が熟して 腐っていく
似てるよ 生きることに
横たわるべきか、それとも立ってまた歩き回るべきか
おれは目を見開いている

自然の音を探して 涙の音を聞き分けるために ゴミの匂いをかぎ分けるために

他の人に与えて 甘い蜜で窒息せずに
すっぱくてほろ苦い風が 木々を抜け 海を吹き渡る

この地上に おれたちが残した 最後の燃料で

それは長く孤独な旅 死から誕生までの 長く続く孤独な旅

死から誕生までの とても長く孤独な旅

おれは また死ぬべきか 重い問題が宇宙を行く
おれには答えがわからない 最後に向き合うまでは

おれ自身の 冷たい死に顔と おれ自身の 木の柩と

それは長く 孤独な旅 死から 誕生までの 長く孤独な旅

死から 誕生までの……
映画 『ラストデイズ』より、翻訳 石田康子

歌がすばらしかったので、チラシより引用させていただきました。

どこのsiteにも掲載されてないですね。

このチラシもやはり、明日はゴミとなって、捨てられてしまいます。

ただ、マイケル・ピットの歌声だけは、いつまでもこころに残るような
気がします。

さて、ニルヴァーナは日本語では「涅槃」と訳されていますね、はてなのキーワードによると

"nirvana"はサンスクリット語で"nir"(打消語)+"va"(吹く)+"na"(過去受動分詞を作る接尾語)であり、「無風、吹かれないこと」あるいは「吹き消された状態」を意味する。

とあります。

また般若心経*1は、川を渡る表現で悟りを祝福します。

死というのは、こちら側(生)からあちら側(死)*2に行くことです。

そうだとすれば、主人公が川を渡るシーンは暗示的ですね。

あちらの世界から、こちらの世界に人はやってきます。

最後に、アメリカ人であるガス・ヴァン・サントが死をどういうふうに描いたかは、映画を見て確かめてみてください!

*1:ギャーテイ・ギャーテイ・パラ・ギャーテイ、パラソウ、ギャーテイ、ボーディソワカ。その意味は「渡った、渡った、向こう岸に渡った」。般若心経の最後にある呪文。マーティン・スコセッシリチャード・ギアチベット仏教の知識が深いですから、ガス・ヴァン・サントも般若心経ぐらいは、知っているかもしれません。

*2:あるいは、施設から逃げ出して川を渡り、娑婆にもどったということでもある。