人生劇場

ホールに人の往来がある。ソファーに腰かけて自分の順番を待っていると、スーツ姿の黒眼鏡をかけた男が話しかけてくる。
「すいません。お悩みがあるようにお見受けしました。実はコンサルタントでして、ここで相談するよりずっといい答えを、もっと安い値段で、お引き受けいたします」
 サラリーマン風と思ったその男が、大学の心理学の講師のようにも見えた。
「こんなところで、そんな相談を持ち掛けられても、困ります。だいたい、見ず知らずの人に自分のことを話すことができるはずなんかない」
 わざと周りの聞こえるような声で
「得体の知れない人に、話なんてできるはずがない。こんな所で、あなたは客を取ろうとしているだけじゃないの」
 自称コンサルの男に強い口調で言った。
「正体の分かるやつなど、この世界にあるはずもない」
 吐き捨てるように言うと、男は、バツの悪そうに顔を背け立ち去った。
 追い払うことができて、せいせいするとともに、落ち着かない不穏な気分だけが残り、ソファから立ちあがり
もうこれ以上相談する気にもなれず、劇場を後に街の中に出て行った。